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パーセプションフロー・モデル概説

マーケティング活動の設計図を描いているか。パーセプションフロー・モデル

PerceptionFlowModel

 

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パーセプションフロー・モデルのテンプレート右上には諸目的を記入する箇所がある。すべてのマーケティング活動と同じく、明瞭・明晰(めいせき)な目的の解釈から始めたい。一連の活動の目的を記述する際には、「売り上げ10億円」とか「利益2億円」といった大枠の目的を解釈し直して「10万人の新規ユーザー獲得」とか「既存ユーザー10万人の使用量を50%増加」など、より直接的にマーケティング活動が担うべき役割から目的を解釈し直すことで活動と目的の一貫性を確保しやすい。

 

単位が「円(売り上げ、利益)」から「人(ユーザー数)」や「回数(使用頻度)」、「グラムやリットル(使用量)」などに変化していると、解釈がきちんとなされているかどうか確認する簡便な指標となるだろう。また、適用する地理的なエリアやターゲットの人数に加えて、ラーニング目的も記述する。一連の活動を通して、われわれがどのような経験値や知見を得るのか明示しておくことで、活動ごとに知識を得て組織が強化されていく仕組みづくりの一環となる。

 

「満足」段階を満たすことが肝

パーセプションフロー・モデルは一般的に現状からスタートし、認知、興味、購入、使用を経て、満足、再購入、口コミといった経路をたどる。案件によってはその段階が増えたり、減ったりすることもある。AIDMAやAISASといった消費行動モデルが知られているが、「満足」を入れている点が特徴の1つと言える。この段階があることで、満足を創出するために製品やサービス体験が確実に期待を超える状況を設定して、能動的に影響していくことも可能になる。

 

そして、それぞれの段階に対して消費者にどのような認識を抱いてもらうべきか、デザインしていく。基本的な順番としては、まず現状を示し、次いで購入時に何を感じどのように認識するかを想定する。次いで、重要な段階である満足、再購入、口コミの動機などを設定した後、間を論理的に埋めていく。

 

消費者は常に論理的に考えているわけではないものの、その行動は自然現象である以上、集団で見た場合には論理的に説明可能であるはずだ。その後、相対する行動を記述する。

 

この一連の作業をこなすには相当な消費者理解を必要とするが、ブランドマネジメントにおける消費者理解に十分すぎるということはない。徹底的に消費者目線になれるだけの人間理解なくして、そもそもブランドマネジメントなどできるものではないというのは普遍的な事実である。

 

「知覚刺激」はテレビ広告ばかりではない

現実的に想定される認識の変化を描くことができたら、それぞれの認識変化を実現するためのメッセージや体験を記述する。これらの認識を変化させるためのさまざまな知覚上の刺激物を「知覚刺激」と呼ぶ。広告コミュニケーションかもしれないし、施策の案内かもしれないし、店頭体験や製品体験、家族や友人との会話のこともあるだろう。この段階の注意点は、既存の施策ありきで書かないことだ。ついテレビ広告とかイベントとかネット動画などの活動を前提として挿入しがちであるけれど、それでは消費者の認識中心ではなく、企業側の意図中心になりかねない。

 

認識を変化させるための知覚刺激が出そろったら、それぞれの知覚刺激を提供するメディアとして最適なものを選ぶ。規定のフォーマットにはペイド、オウンド、アーンドに加えて「その他」という欄がある。一般的にはペイド、オウンド、アーンドで全活動が完結できるはずであるけれど、「その他」を設定しているのは製品そのもの、パッケージ、自社の店頭などを明確にメディアとして捉えるためだ。これらはオウンドメディアでありながら、そうした理解は広く浸透しているものではない。製品など重要な消費者体験に特別な注意を払うためにも、「その他」のメディアを積極的に意識できるといい。

 

一通りのパーセプションフロー・モデルが完成したら、それぞれの段階にKPI(重要業績評価指標)、つまり数値目標を設定しておく。KPIは露出量などメディアに関する場合もあれば、認識変化の質や量の度合いを%で示すこともあるだろう。

 

カスタマー・ジャーニー・マップとの3つの違い

パーセプションフロー・モデル同様、消費者視点でマーケティング活動の全容を可視化し俯瞰(ふかん)する道具として「カスタマー・ジャーニー・マップ」がある。それぞれ、時代に合わせて進化しつつ、20年近く実践に供され続けてきている。消費者の購入や愛用、口コミなどの経路を示すという構造は似ているが、一般的なカスタマー・ジャーニー・マップと3点の違いがある。

 

(1)カスタマー・ジャーニー・マップが4Pのプロモーション(コミュニケーションや施策)とプレイス(流通チャネル)に注目した「行動と接点」の記述であるのに対し、パーセプションフロー・モデルはプロダクト(製品)やプライス(価格)も包含したすべての4P要素による「認識の変化」を中心としている。

 

(2)カスタマー・ジャーニー・マップが「現状の記述」であるのに対し、パーセプションフロー・モデルは「これからの全マーケティング活動の設計図」(未来の記述)である。前者は過去から現在に基づいた活動の最適化を促し、後者は未来の計画立案をもたらす。特に、属性順位の転換をして「いい〇〇」を再定義する市場創造には不可欠なものとなる。

 

(3)カスタマー・ジャーニー・マップはカテゴリーごとなので競合でも似たものになるのに対し、パーセプションフロー・モデルはブランドごとなのでブランドに固有のものになる。前者はカテゴリー内での相対的な弱点を把握するのにも適する。対して、後者はブランドに固有の意味を構築するブランディングの設計に必要である。

 

両者の違いを大まかに例えるなら、カスタマー・ジャーニー・マップは現存する建物を計測して作った見取り図で、パーセプションフロー・モデルはこれから建てる建物の設計図である。現状の改善にはカスタマー・ジャーニー・マップ、市場創造にはパーセプションフロー・モデルと、必要なステージや使い道が違うので、両方とも習得しておくと心強い。

 

一般的なカスタマー・ジャーニー・マップとパーセプションフロー・モデルの違い

 

他部門やパートナーと連携するための設計図

企業がメディアや購入場所といった接点で消費者を囲い込んでも、気持ちや認識が動かなければ購買行動を起こすことは難しい。人は興味を持ったものを欲しいと思い、欲しいと思ったものを買うのだ。いいものを作ることは必要条件であっても十分条件ではない。いいものだと認識されなければ購入意向につながらないことは、意外と忘れられがちな事実でもある。

 

パーセプションフロー・モデルは、消費者の認識変化に着目したマーケティング活動の全体設計図だ。コミュニケーションなどの施策だけでなく、製品開発や価格政策など4P全域にまたがる包括的なブランディング活動や、市場創造のためのマーケティングマネジメントに不可欠である。

 

全体設計図を描いておくことで、他部門や多様な新技術、複数の代理店をうまくオーケストレイト(統合)しやすくなる。ピアノソロなら楽譜がなくてもいいかもしれないが、何十人もの奏者を擁する交響楽団を指揮するためには相応の楽譜が必要だ。新しいマーケティングサービスも、全体設計図があれば認識変化のどの部分を担当してもらえばいいか分かりやすい。担当する役割が明確であれば、新技術を導入したのに使ってないといったこともなくなるはずだ。

 

製品体験こそ最も重要なブランド体験

パーセプションフロー・モデルに従うことで、代理店や他部門向けのブリーフィングは一貫して、そして協調してブランド体験を提供するように設計できる。オンライン・オフラインのクリエイティブ、同じくメディアプラン、パッケージデザインから製品設計、店頭の経験や支払いに至るまで、すべてがブランド体験である。

 

その中でも製品設計はマーケティングとは独立した機能だと理解されることが多いが、製品体験こそ最も重要なブランド体験と言っても過言ではないだろう。マーケティングの全体計画の中で設計された製品は、その他すべての活動と連動し、製品機能が設計通りの性能を発揮することで想定通りの上質なブランド体験につながる。作ったものを売るのではなく、ブランド体験を提供するものを作るのだ。

 

製品開発における効果はそれだけではない。例えば、美容クリームのクリームそのものの色や、車のドアが閉まる音などといった知覚可能な製品属性はブランドの知覚品質に大きな影響を与える。消費者にとって無意識であるし、研究開発部門が管理することが多い項目なのでマーケティング担当者が注目しないことも多い。しかし、これらは見えにくいが重要な資源だ。消費者調査でもなかなか言及されないが、使用時の満足や購入意向に影響していることも少なくない。

 

全体設計図があれば、こういった資源をうまく活用できることに気づけるし、その術も見つかるだろう。同様に、価格やオンライン・オフラインの購入接点についても、どのような認識変化を促すか明示することで、マーケティング活動の全体最適につなげられる。

 

製品分野の異なるブランド間で学びを共有

実行の側面から観察すると、キャンペーンの実行中にラーニングを取りやすくなる(学びを得られやすくなる)ので、計画の修正やラーニングに基づく知識の蓄積もしやすくなる。製品カテゴリーの異なるブランド間でのラーニングの共有は大きな機会でありながら、実践できる組織は極めて少ない。パーセプションフロー・モデルという共通言語を通すことで、それぞれの経験値が流通しやすくなる。スキンケアブランドのラーニングをシャンプーで使うことも可能になる。

 

また、計画の全容が俯瞰(ふかん)できることで、堅牢(けんろう)な戦略の構築と一緒に権限委譲にも大きく貢献する。複数ブランドをポートフォリオで管理するCMO(最高マーケティング責任者)などのマーケティングリーダーは、直接すべてのマーケティング活動に陣頭指揮をするわけではない。艦隊の指揮官は各艦の砲塔に直接指示を出すことはない。とはいえ、全容を把握する必要はある。明瞭な戦略と、各ブランドのパーセプションフロー・モデルに集中し、掌握しておけば、実行と市場への対応については大きく権限委譲することが可能になるだろう。

 

1つの設計図で多様な消費者の対応ができるか

 

現状を理解するためには複数の経路があるはずだ。しかし、パーセプションフロー・モデルは未来の「設計図」であるから、最も効果的・効率的な想定を1本描いておくことで効果を発揮できることが多い。現実的には複数の経路が発生してくるので、事後的に現場に合わせて修正を加えることも正しいだろう。事前にすべてを見通しきることは簡単ではない。釣り師が1匹目の魚からその日の釣り方のヒントを得るように、商品の初動から学ぶことは多いはずだ。

 

「考えていないで、アクション中心で行こう」とか、「下手の考え休むに似たり」という掛け声が飛ぶ組織がある。休むのと大差のない程度の思考力しか持ち合わせないのであれば、活動と修正を繰り返すのは1つの解決策だろう。もし休む以上の思考力があるなら、考えてから活動する方が圧倒的に効率的だ(そして、我々のほとんどは後者だ)。行き先も分からずにむやみに走ったところで、そうそう当たるものではない。持続的に成功するためには、目的地を確認し、方角を定めてから走るべきだ。

 

では、どの程度まで「考える」ことに時間を使うべきだろう。もしそのマーケティング活動の全予算が1億円だとしたら、その効率を最大化するのに3%分を考えることに使うのは無駄なことではなさそうだ。建築業界では、設計部分が全費用の3%という相場があると聞いたことがある。1億円の予算であれば300万円分だ。主要メンバーの時間当たり人件費を概観した時に、総和でざっと300万円分までは全体設計を考えることに使える計算になる。かなりの時間になるだろう。

 

仮に1時間当たりの総合的な人件費1万円の人材が3人で臨むならおのおの100時間、実労働日にして2週間以上に相当する。時間当たり人件費が5000円なら丸々1カ月考えてもお釣りが来る。じっくり考え、不測の事態にも耐えられる計画を作るのに十分ではなかろうか。もちろん、必ずこれだけの時間を使わなければならない、というわけではないので、念のため。

 

行動主義の名の下に施策ありきの活動にまい進したり、微修正だけで過去の踏襲したりといった活動に資源の大半を投入するのはもったいないように思う。テクノロジーや代理店など利用可能な資源が刻々と変化しているのであれば、それらをうまく使えるマーケターが戦略的な優位を確立していく。全体設計図があれば、多様な資源をうまく使いこなす体制を整えられるはずだ。

 

相応の時間を使って全体設計図を考えることとは、走り始める前に目的(=ゴール)を確認し、道順を確認することだ。全関係者が全力で走るためにも、重要なプロセスだと言えるだろう。

 

※本記事は書籍『マーケティングプロフェッショナルの視点』より抜粋しています。