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マーケティング組織を強くするCMOの役割

CMO(マーケティング最高責任者: Chief Marketing Officer)という仕事には、大別すると二つの種類が存在します。この種別は、ブランド組織の構造に大きく依存するように思います。

 

ひとつは1社で1ブランド、あるいはひとつの製品カテゴリー内でいくつかのブランドを運営している場合。もうひとつは、1社で複数の製品カテゴリーや市場にまたがるブランド群を擁し、ブランドをポートフォリオで運営している場合です。

 

1社1ブランドのCMO

前者のCMOは、大きなブランドのブランドマネジャーとして機能します。マーケティングについての意思決定を自分ですることが多いようです。同時に大部分の職責をCEOと共有するかもしれません。マーケティング予算が売り上げの10〜20%を占めるといった場合では、利益と同額かそれを上回ることにもなるでしょう。その影響はとても大きなものです。年間の利益責任は言うに及ばず、四半期ごとの、あるいは毎月の売り上げについても仔細に把握しているかもしれません。シーズンごとの施策や広告表現、メディアプランに加えて、新商品導入についても具体的な計画を把握、あるいは立案していることもあります。例えるなら、スポーツチームのエースプレイヤーとしてボールに触れ、直接的に得点に貢献するイメージです。

 

ブランドポートフォリオのCMO

対して、ポートフォリオでブランド管理をする組織のCMOは、個別のブランドの状況に深く立ち入るのは上策ではありません。昔取った杵柄から、その欲求に駆られることもあるかもしれませんが、果たすべき役割が違います。よほどの能力や熱意があっても、マイクロマネジメントなオペレーションはあまり効果的でも効率的でもありません。仮に経験豊かなCMOが通常のブランドマネジャーの10倍の能力を持っていたとしても、20ブランドもあれば、ブランドあたりに投下できる能力はブランドマネジャーの0.5相当まで劣化してしまいます。しかも、時間は1/20しかありません。知能と経験に関わらず、よく考える時間もないため、消費者の理解の度合いもかなり矮小なものになってしまいます。それぞれの局面でのタイムリーは意思決定はそれぞれのブランドを担当する各ブランドマネジャーに委任すべきです。

 

CMOの仕事

では、こういったCMOにはどのような貢献を期待すべきでしょう。ブランドのポートフォリオが安定的に確立され、組織がブランドマネジメントを正しく実行し、持続的な成長を自律的に進められる組織環境を整えることが重要な仕事です。スポーツチームが強くなれば自ずと試合に勝てるように、組織が強くなればビジネスは伸長していきます。このようなCMOの貢献の仕方は、スポーツチームであれば監督やコーチの仕事に近いものです。ゲームの組み立てや采配はしても、直接自分でプレーするわけではありません。むしろ、直接自分でプレーせず、効果的に各ブランドマネジャーに権限委譲できる仕組みを作ることが重要です。

 

スポーツと本質的に違うのは、ゲームの仕方によって、そのマーケティング組織の構造が大きく変わることです。

スポーツであれば、競技ルールでゲームへの参加人数や、得点の計算方法が決められています。ビジネスでは、どのような組織構造で市場競争に臨むべき、という決まりはありません。

いうまでもなく、組織が潜在的にもつ能力を十分に発揮しないと効果的・効率的な成果は見込めませんが、その能力を発揮する方法は多岐に渡ります。また、得点の計算方法、言い換えれば利益の出し方も様々です。マネタイズの方法やビジネスモデルと言ってもいいでしょう。

これらを勘案して、マーケティング組織の全体像を設計し、オペレーションの方法を定め、どのような行動原理としての文化的規範を導入し、人材育成の方針やキャリアプランの設定をし、目指すマーケティングに適したP/Lの整備をすることが主要な仕事です。

こうした仕事は、毎年おこなう必要はありません。一度確立すれば、しばらく使い続けられます。

経験的には、このようなCMOは組織に常駐する必要はないと考えます。それは、建築家が自分で設計し建てた家に住むわけではないのと似ています。それぞれの家の運用は実際に住む人がするように、ブランドマネジメントの方法を確立した組織では、それぞれのブランドの運用は訓練されたブランドマネジャーが指揮するのです。

重要なことは、組織の構築・改築やブランドポートフォリオの大きな変更など、決定的な局面でCMOの能力や経験を集中して使えるようにすることです。

 

素晴らしいプレイヤーがいい監督になることもあれば、そうでないこともあります。要求される能力が同じではないので、当然です。また、長くマーケティングをしていたからといって、マーケティング組織の構築ができる、というものでもないようです。長くクルマに乗っていても、クルマを設計できるわけではありません。マーケティングをしてきたことは必要条件であったとしても、それだけでは十分条件ではありません。

 

再現性のある組織構築の方法論を有していることが、効果的で効率的に組織を構築するためには不可欠です。たとえ最初からうまくいかなかったとしても、方法論が確立されていれば、修正点を見つけやすいので素早く改善を行うことができるでしょう。